小泉保著「縄文語の発見」(青土社、1998)
中沢新一「モノとの同盟」に強い衝撃を受けています。「もの【物】」という日本語に狩猟社会の思考方法が埋め込まれているという指摘に心がざわめきました。その思考方法がこれからの世界に必要不可欠かもしれないという問題提起として受け止めました。「モノとの同盟」の具体化、方法、展開の話しはほとんど無いけれど、それは人類史的な意義のある大転換であるがためであり、安直には話せないものだからであると理解しました。
この知的衝撃を受けて、早速折口信夫全集第3巻「古代研究 民俗篇2」を入手しました。読書チャレンジして、ものについての学習をさらに深めたいと思っています。大護八郎「石上信仰」、石上堅「石の伝説」、小林達雄「縄文の思考」、小林達雄「縄文人の世界」などの読書と合わせて古代の思考に対する興味が高まります。
一方、私は趣味で千葉県北西部の小河川花見川流域を散歩し、気がついたことをブログ「花見川流域を歩く」で情報発信しています。この中で、河川名「花見川」や地名「花島」、「猪の鼻」、「花輪」など「ハナ」名称に興味をもち、柳田國男の説を援用して「ハナ」が縄文時代起源の「台地の突端」の意味の言葉であるだろうなどと議論しています。
以上二つの取組から、言葉の意味、内容だけでなく、日本語という言葉そのものの起源にも興味を持ちました。
「もの【物】」、「はな【端、鼻】」という言葉が縄文人に使われていたのか(縄文語彙であったのか)、言語学的に裏を取りたくなりました。
そのような観点で小泉保「縄文語の発見」を読んでみました。
ここでは、本そのものを紹介します。
1 諸元
著者:小泉保
書名:縄文語の発見
発行:青土社
発行年月日:1998年6月15日
体裁(19×13.8×2.4cm)279ページ
ISBN-13:978-4791756315
2 目次
まえがき
第1章 縄文文化---考古学の立場から
第2章 縄文人---人類学の立場から
第3章 日本語系統論
第4章 縄文語の復元
第5章 弥生語の成立
第6章 縄文語の形成
参考文献
あとがき
3 「まえがき」全文
「われわれが家系を尋ねるときには、父、祖父、曾祖父という順に過去へと溯っていくのが常道である。しかるに、日本語史や系統論では、なぜか祖父の時代から日本家が始まり、曾祖父は血のつながらない異質不明の人物と思いこんできた。ここで言う祖父は弥生時代の言語を、曾祖父は縄文時代の言語を意味している。つまり、弥生期の言語と縄文期の言語の間に血脈の断絶があったと決めてかかっていた。そうした確証はなにもないのに、断絶の憶説にいまも研究者は縛られているのである。
そのため、系統論はいきなり日本語の祖先を特定しようとして、日本の北方に南方に親類縁者を探し求めてきたが、結局それらしい相手を見つけることができなかった。言語の血縁関係を認定するのには「規則的音声対応」という判定法がある。この方法により身元の証明ができたのは琉球語のみである。琉球語は間違いなく日本語の分家である。その他の類縁性が想定されている言語については、類似していると思われる語彙や文法特徴をいかほど数えあげてその親族関係を主張し合っても、規則的音声対応が取り出せないかぎり、水掛け論に終始することになるであろう。
日本語の経歴を探究するに当たって、まず曾祖父の言語すなわち縄文時代の言語の解明が大前提をなすと筆者は考えている。弥生(時代の言)語が縄文(時代の言)語を駆逐して、それに入れ替わったとする証拠は何もない。日本語の方言分布を念入りに調べていけば、必ずや縄文語の様相をとらえることができるであろう。たとえば、出雲の方言がなぜ東北弁と同質であるかという問題に納得のいく解説を施すためには、縄文時代の言語情勢を推定し、そこから説き起こす必要がある。
弥生語の一代前の縄文語は、弥生語の特色を説明できるものでなければならないと思う。その特色とは、専門的に言えば方言分布、アクセントの発生、特殊仮名遣いの成立、連濁現象、四つ仮名の問題などである。こうした問題を解く鍵が縄文語の中に隠されているに相違ないであろう。いままで、これら課題の究明は決して十分であったとはいえない。こうした音声的諸事項の因子をはぐくんだ縄文語の実体を明らかにするのが本書の目的である。
それに戦前戦後をとおして人類学と考古学は驚くべき進展をとげ、一万年に及ぶ縄文時代の輪郭を掘り出してくれている。これに応えて、縄文時代の言語を特徴づけることが国語学、言語学の責務であると考える。
そのためには、日本語の方言形に比較言語学の手法を適用して、その祖形を求めるとともに、方言の分布について地域言語学的考察を加えて、まず縄文晩期の日本語の姿を再構したいと思っている。
また、縄文語の解明は考古学と人類学の実績に裏づけされたものでなければならない。これを無視していきなり日本語の元祖の身元を割り出そうとすると、牽強附会にみちた空理空論になるおそれがある。
さらに、日本語の歴史は、縄文語を後期、中期、前期と順次溯ることにより体系づけられるものと信じている。それには、考古学と人類学の縄文時代に関する予備知識が必要となるので、その概略を述べてから、先賢たちの日本語の系統論を紹介し、その後で縄文語へとアプローチすることにしよう。
小泉保」
4 私のメモ
考古学と人類学の成果を紹介してから、過去の日本語系統論を体系的かつ批判的に紹介し、最後に著者自身の縄文語へのアプローチについて述べていますので、大変分りやすい構成の本となっています。日本語起源について大変説得力のある論理展開がされている本だと思います。
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