2011年8月10日水曜日

中沢新一著「日本の大転換(上、下、補遺)」を読む

中沢新一著「日本の大転換(上、下)」(雑誌すばる2011年6、7掲載)と中沢新一「『日本の大転換』補遺 太陽と緑の経済」(雑誌すばる2011年8掲載)を読んでみました。

私が興味を持った点と感想を記録しておきます。

興味を持った点 その1 原発と一神教の対応
 A・ヴァリャナック「エネルギーの征服」という書を引用して過去のエネルギー革命(注)を振り返りつつ、原発が生態圏の内部に本来あるはずがない「外部」が持ち込まれたことを明らかにしています。そして、原発に対応する宗教思想が一神教であることを詳しく論じています。一神教もほんらい生態圏には属さない「外部」を思考の「内部」に取り込んでつくられた思想のシステムであることを述べています。
原子力技術は一神教的な技術であり、誤解を恐れず言えばユダヤ思想的な技術である。原子核物理学を創造した科学者と、それを利用して原爆や原発を開発した科学技術者の多くが、ユダヤ人であったという歴史的な事実をさして、そう言っているのではない。生態圏に『外部』を持ち込もうとするその思考方法が、二つを接近させてしまうのだ。

注  過去のエネルギー革命 A・ヴァリャナック「エネルギーの征服」
第1次革命 火の獲得と利用
第2次革命 農業と牧畜
第3次革命 火の工業的利用(金属の武器)
第4次革命 火薬の発明
第5次革命 石炭利用蒸気機関利用
第6次革命 電気と石油
第7次革命 原子力とコンピューターの開発

興味を持った点 その2 リスクにおける、原発と現代資本主義の類似性と同型性
1資本主義は原子核分裂と同じように、人類に特有な「社会」と呼ばれる特殊な生態圏を、破壊する。
2資本主義は原子炉の核分裂連鎖反応と同じように成長を続けなければ成り立たず、そのため、資源とみなされた生態圏の一部を無際限に開発・消費し、廃棄物やco2などのリスクを生み出している。
3原発を最も重要なエネルギー源とする産業形態を発達させ、生態圏をリスクにさらす。

興味を持った点 その3 第8次エネルギー革命
・資本主義システムに組み込まれた原子の「炉」が破綻し。日本文明にとって、まさに文明的危機が出現した。
・エネルゴロジー(エネルギーの存在論)と名づける知の形態の創造が求められる。
・第7次エネルギー革命に内在する過激な構造を、否定的に乗り越えたところに、私たちのめざすべき第八次エネルギー革命は実現される。生態圏は直接・無媒介的な太陽的プロセスとの接触をみずから否定することが求められている。
・どのエネルギー革命も、それに対応する宗教思想や新しい芸術をもっている。第8次エネルギー革命は一神教から仏教への転回として理解することができる。
・第8次エネルギー革命を支える技術の原型を、植物の光合成に見出すことができる。
・原子力発電システムは未来の科学博物館に収められる。

興味を持った点 その4 脱資本主義
・脱原発のさきに、「脱資本主義」の変化を予測できる。
・第8次エネルギー革命は、ほとんど自動的に、現代の資本主義が陥っている内閉性を打ち破っていく力を秘めている。
・贈与性を本質とする太陽エネルギーとの関係を一番の土台とする新しい経済学の出現が求められる。

            中沢新一著「日本の大転換 下」掲載の変化予測
脱原発から脱資本主義への類推による変化予測

興味を持った点 その5 リムランド文明の再生
・日本文明は、ユーラシア大陸が太平洋に押し出してつくった「リムランド(周縁のクニ)」の列島上の形成されてきた。
・不安定な大地の条件の中で、自然力を外に押し戻したり、ブロックしてしまうのではなく、インターフェイスの機構をつうじて、媒介的に自分の内側に取り込む方法が、様々な分野で発達した。
・治水工法、里山などがその例であり、人工と自然のハイブリッドな秩序形成がめざされた。
・経済も同じで、日本文明では、市場経済と社会の間に、精妙なインターフェイスが形成されることによって、相互の媒介関係が長い間保たれてきた。(企業利益と公益とのつながりという商人の倫理など)
・第8次エネルギー革命の原理は日本文明の生成原理と似ている。第8次エネルギー革命の可能性は、日本文明にとっては大きな僥倖である。

興味を持った点 その6 経済における贈与性の浮上
・経済の基層には贈与が原理として据えられている。
・資本主義は経済のいたるところで贈与的な関係を消去してきた。
・しかし、農業が太陽からの贈与で成り立っていることからして、全産業の基礎には贈与性が深く埋め込まれている。
・第8次エネルギー革命は経済の中で交換の思考が拡張されることになり、贈与の次元がより高度な形態として取り戻されるはずだ。
・贈与が経済に組み込まれると、通貨は「地域」の生活に密着した働きをするようになり、さまざまな地域にそれぞれの「地域通貨」が生まれる。

感想 その1 中沢新一の類推力に感心
・原発と一神教と資本主義を対比してその関係を明らかにしていく、中沢新一の知的能力(類推力と関連情報の収集力)の絶大さに一種の感動を覚えました。
・太い思考のルートが既に出来上がっていて、3.11を待つかのように「日本の大転換」が書かれたのだと思います。

感想 その2 社会変革に関連する要素の増大
・9.11の同時多発テロが中沢新一を刺激してカイエソバージュシリーズが出来たものと考えます。その読後感想メモはこのブログ前5記事にアップしました。
・カイエソバージュシリーズの結論書ともいえる「対称性人類学」の読後感想(2011年7月31日記事)で述べたとおり、私(そして人々)が興味を抱く社会変革のアクションに関わるヒントはあまり明示されませんでした。
・ところが、3.11の大震災と原発事故が中沢新一を刺激して(カイエソバージュシリーズと比較すれば)瞬間的ともいえる短時間に書かれた「日本の大転換」には社会変革(第8次エネルギー革命と来るべき経済システム)の方向が明示され、アクション(例 地域通貨)に関わるヒントまでもが述べられています。
・9.11を契機に太い幹と沢山の枝、無数の葉を備えた植物が育ち、蕾が出来ていたところに、3.11というインパクトで一気に花が咲き出したという印象を受けます。
・今後「日本の大転換」という花が大きな果実に結実していくことを楽しみにしています。
・一読者として、学者としての「学」の創造にとどまらず、実務家(会社員、企業家、行政職員、政治家等)に役立つマニフェストに関連する情報発信を、中沢新一に期待します。

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